芸術監督団

芸術監督[舞踊部門] 倉田翠

芸術監督就任が決まってからここまでの間、街に通い、劇場に通い、それなりのプレッシャーも感じながら、「自分に出来ることとはなんだろうか」とずっと考えてきました。 そうして今、とても真面目に、「私に出来ることなんて大してないんじゃないか」と思っています。
石丸さんみたいに歌が上手いわけじゃないし、木ノ下さんみたいな知識とトーク力を持っているわけではない。じゃあ私がこれはやってきたなと思えることは何か、と考えると、様々な人と出会い、彼らと出会ったことを作品にし、その中で自分が一体何なのか、何になり得るのか、時々自分の無力さにがっかりしながら、そんなことを考え続けてきたことではないかな、と思います。 なので、私一人で何かを動かすことはできないと思うのです。
私はこれから、松本という街、そこに住む人々、ここまで積み上げられてきた歴史などと、様々な状況で出会っていくのだろうと思っています。
たまたま出会うことのできた人たちと「さて、じゃあどうしようか」というところから始めたい。

長くなりますが、意味のない話を。
以前、東京の大手町・丸の内・有楽町で働くビジネスパーソンたちと作品を作ったことがありますが、その関係は緩やかにずっと続いています。
時より集まったりする。職種もバラバラ、部長も居れば、まだ新入社員に近い人もいる。
近況報告をする。他愛もない話で笑う。
「仕事」ということで言うと、この集まりには何の意味もないんです。有楽町のど真ん中で、意味もなく集まっている。
私はその「意味のなさ」をとても大切なことだと感じています。
そのような、社会的意味が意味をなさない場でしかできないことがある。見えないものがある。

私に出来ることがあるとすれば、もしかしたらそういう場を作ることかもしれない。
これから訪れるであろうたくさんの出会いと、そこから何が生まれてくるのかを、今から楽しみにしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

プロフィール

写真:芸術監督[舞踊部門] 倉田翠

演出家、振付家、ダンサー、akakilike主宰。1987年、三重県生まれ。
3歳よりクラシックバレエ、モダンバレエを始める。京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)映像・舞台芸術学科を卒業後、京都を拠点に、演出家・振付家・ダンサーとして活動。作品ごとに自身や他者と向かい合い、そこに生じる事象を舞台構造を使ってフィクションとして立ち上がらせることで「ダンス」の可能性を探求している。2016年より、倉田翠とテクニカルスタッフのみの団体、akakilike(アカキライク)の主宰を務め、アクターとスタッフが対等な立ち位置で作品に関わる事を目指し活動。演出する作品の出演者はプロのダンサーや俳優だけでなく、一般市民、依存疾患者、オフィスワーカーなど、様々な立場の人が登場するなど、他に類のない舞台芸術作品を生み出している。